父の呪縛·母の執着

2022.12.18

 私は一人娘だ。

 父は奥尻ハイヤーの5人兄妹の長男坊だったが、車で20分もあれば、一周してしまう奥尻島には嫌気が差して中学で、函館に下宿して暮らした。

 本当は東京に出たかったが、奥尻島出身者にはせいぜい函館か札幌が限界だった。

 下宿屋のお母さんは厳しい方だったらしい。

 イカそうめんが出された時、嬉しくって、醤油をたくさん出して食べると、案の定、醤油が余ってしまった。お母さんは

「一美(父の名前)君。このお醤油どうするの!?こんなもったいない食べ方したら駄目でしょ!」

と言われたそうだ。

 父は勉強が出来たし、スポーツも得意だったし、空手も習っていた。

 帰国子女でもないのに、高校の時点で英語はペラペラだった。

 そんな父が若くして、出世しないはずがない。

 家事·洗濯も自分で出来たし、習ってもいないのに、ピアノやギターは弾けていた。

 私は父が当たり前の男性だと思っていた。

 ルックスもいいし、なんでも出来る。

 私の母が惚れただけあった。

母は無類の面食いだった。

 顔が悪い男性は相手にしない人だった。

 真田広之さんから、B’zの稲葉浩志さんまで、いわゆるイイ男が好きなのだ。

 一人娘の母親にありがちな、私に寄って来る男性を顔で判断して

「あの男は止めときなさい。顔が悪いから」

と、一刀両断した。

 母にしてみると、自分の旦那よりもイイ男と、娘には一緒になって欲しいのだろう。

 しかし、父を越えた男性はそうそういなかった。

 父はモテたから、女性を作っては家を出て行き、私はホトホト困った。

 父は人間的には立派だったが旦那としては最低だった。

 私が男性不信になるのを想像してもらいたい。

 世の中の男性全てがそうではないのは分かっているが、いずれ裏切るだろうといつも感じていた。

 だから、気の弱そうな中性的な男性に惹かれるのだろう。

 しかし、結果的に父に似た人を好きになってしまう。

 人間的にキャパシティーが広い人が好きだからだ。

 父は職業や性別や国籍で人を差別したりする人ではなかった。

 外国人だろうと、無職だろうと、社長だろうと、風俗嬢だろうと、接する態度は変わらない人だった。

 女癖の悪さを除いたら、完璧な人だった。

 母も女性として、母として立派だったと私は思う。

 私は自分から好きにならなければお付き合い出来ないタイプだから、彼氏が出来た時は知らない振りをしていてくれたが、好きでも無い男性が寄って来ると母の勘とは凄いモノで、その男性に

「ウチの娘を宜しくお願いいたします」

と挨拶して、男性をビビらせるのだ。

 だから、男性は皆離れて行く。

 私が結婚出来ないのはそんな事情もあるのだ。

 世の中の男性は結婚したければ一人娘と、父親が出来た女性は止めておいた方が良い。大変だから。

 他界したからこそ、いつもどこかで、見られている気がして、悪い事は出来ない私がいる。

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