妄想フィアンセ Vol.29

2023.4.13

 私が結婚していないのは俊彦を越える位に私の心を持って行った人がいないからだ。

なら、俊彦は❓

俊彦はそんなに器用ではない。

アルフィーへの曲創りの大半をし、アルフィーをどうやって行くか❓に全精力を費やしていた。

 桜井だけが、既婚者だが、坂崎も事実婚の彼女がいる。しかし、自分はと言うと、アルフィーの為に彼女をほったらかしにして気付いたら、別れを迎えていた。

 結婚とアルフィーを天秤に掛けられない、その不器用さに自分でも嫌気が差す。

 それなりに好きな人はいたが、一歩がなかなか踏み出せないのだ。

そして、ファンレターでも

「高見澤さんが結婚したら死にます」

と、未だに来る。

中でも、中学生の男の子や女の子から

「イジメに遇っているけれど、Takamiyのラジオで何とか生きていられます」

等の切実な手紙が届く。

 みんなの青春を自分のわがままで潰す訳には行かない。俊彦は人一倍責任感が強かった。

 それに、紙切れ一枚で、本当の愛を貫けるとは思っていなかった。

 真に愛したならば逆に婚姻届も誓いの指輪もいらないだろうと思っている。

 三度程、結婚しようと思った事がある。しかし、一人は彼女の心変わり、もう一人は親に反対され、もう一人は亡くなってしまった。私と同じ病気だった。

俊彦はそれを反省し、私と向き合う気持ちでいた。

 佐知子は俊彦が売れる前に付き合っていた女性だ。

鬱病を患っていた。

俊彦は高を括っていた。自分の力で、佐知子を治せると。

 しかし、デート中でも、俊彦がよそ見をしたら佐知子は

「あの女性がタイプなのね⁉️」

「違うって。ただ景色を見ていただけだよ」

と、しょっちゅう、喧嘩になった。俊彦は疲れて佐知子と暫く会わなかった。

 ある日、佐知子のお母様から電話があり

「俊彦さん。驚かないでね。ウチの佐知子、昨日、亡くなったのよ」

に、俊彦は目の前が真っ暗になった。

佐知子から、12枚もの便箋に遺書がしたためられていた。

 そこには私を忘れてと愛していたと延々と綴られていた。

俊彦は泣いた。そして、佐知子を忘れる為にギターを弾いて歌った。坂崎も桜井も俊彦を心配した。

 俊彦はもう本気で女性を愛する事は出来ないと思った。

 売れてから、色んな女性が寄って来たが、一晩だけのアバンチュールしかして来なかった。

また、心を開いて愛して、居なくなられるより、ずっとましだったからである。

 しかし、俊彦も今年で69歳だ。いい加減、遊びは止めようと思った。15年位前から性欲は湧かなくなっていた。

 心と心の繋がりを求めるも、周りの女性は関係を持ちたがる。

 だから、私との付き合いに慎重であった。

      ・・・・・・続く

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