マルボロのメンソール

2023.2.2

 私が大学病院に入院していた頃、絶対的に私の味方になってくれた3つ年上の女性Sがいた。

 彼女は3か月1日3箱のマルボロのメンソールと殆ど食べずにコーヒーで過ごすと、ぱったりと煙草を吸わず3か月暮らすという人だった。

 腕にはリストカットと根性焼きの痕が痛々しくあった。

 何故にそれまで、自分を責めるのだろうかが不思議だった。

 私より年上なのにSは「中田さん」と言い、私は「S」と呼び捨てだった。

私より頭が良いのに、私を

「勉強家で偉いです」

と言った。

 他の患者に

「Sさん、H大学出てるんですね~。博学だ」

と言われると

「褒め殺しですか!?」

と喰って掛かる始末。

 私にだけ、優しかった。

 妹さんと2人で、父親を心底嫌っていた。

頭が良すぎて、病気になったタイプだろう。

 私には敬語で話すので

「Sの方が年上なのだから、中田でいいよ」

と言っても

「いえいえ、中田さんは素敵な方ですから」

と譲らない。

 二人で医者や看護師に反抗したりした。

 漫画家の山田花子さんの本を貸してくれたり、私の世界が広かった。

 オノ・ヨーコのグレープフルーツ・ジュースの本をプレゼントしてくれたりもした。

 ある時、眼鏡を外して綺麗なSがいた。それはとても、綺麗だった。

 突然、別れがやって来た。

私のテーブルに”good-bye”と書いて、退院して行った。

 多分に私と付き合うのが疲れたのだろう。

Sはまだ、マルボロのメンソールを吸っているのだろうか?

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